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暖炉に火をくべて

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音楽、家族のことなどを、時々。

佐野元春&THE COYOTE BAND [BLOOD MOON] レビュー2

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例によって元春は、ラジオや雑誌に出まくってプロモーションしまくっているので、アルバムを手にするまでは極力それらを読まないように聴かないようにしてきた。ネットに上がっている評論やレビューもしかり。
元春も「レコーディング中は他のアーティストの曲は聴かないようにしてる。影響を受けてしまうからね」と言っていたけど、私も同じ。
・・・いや別に、それほどの感想を書いているわけではないのだが(笑)

ラジオはいくつか聴いちゃったけどね。
愛するDJ、野村雅夫とJoe横溝のインターFM の番組に生出演は絶対にリアルタイムで聴きたいから、それまでに書き終えないと。

前置きが長くなった。ごめん。
アナログ盤を聴きながら仕上げています。

境界線や優しい闇を聴いた時にも思ったことだけれども、歌詞に、今までの元春の曲に使われていた特徴的な言葉や表現が、このアルバムの中に散りばめられている。
それは意図的なのか、それとも偶然なのか。
コヨーテバンドの集大成という位置づけ、ということも合わせて考えると、とても興味深い。

また、「コヨーテバンドはギター・ポップバンド」だといつか元春が言っていた気がするが、それはもちろんそうなんだけど、キーボード、特にピアノを活かした曲が多いよなぁ、と思う。

【境界線】
「ど真ん中」「オチ」という言葉、元春としては使うのは珍しい。あえて使ったんだろうか。
たどり着くといつもそこには川が横たわっていた。その川は、境界線?
いつかたどり着けるまで、夏の虹を追いかけて、境界線に橋をかけて越えて行こう。
そこで待っている「君」は、他の誰かではなく、「新しい自分」?
何か少しずつ失くしてゆくけれど、失くしてしまうことは悲しいことじゃない。
夢見る力のすべてを使って、そう、夢を見る力をもっと。


【紅い月】
元春が「愛や自由」ではなく「愛とか自由」と「とか」という言い回しを使うようになったのはいつからだろう。
“国のための準備”かな?
実はどうしても「とか」に馴染めない。
さておき。
“紅い月”は、何の象徴だろうか。
タイトルトラックであるこの曲は、得も言われぬ力がある。
フルバージョンが公開された時、ものすごく心を揺さぶられて、涙が溢れてきた。
それほど起伏があるわけではなく、むしろ淡々と紡がれていく言葉と音。
サビの部分でポツン・ポツンと鳴るピアノ。
「夢は破れて/すべてが壊れてしまった」という絶望的な詞(ことば)の向こうで鳴るこのピアノの音が、一筋の希望の光に「見える」。そして、リズムを刻むギターの音が、背中を押してくれる気がする。
辛い現実を、見て見ぬふりをするのではなく、なかったことにするのでもなく、一度正面から受容した上での、これから。
それはさながら、一旦地球の影に完全に覆われた月が、赤い満月となって再び浮かび上がる、皆既月食=BLOOD MOONのよう。
その紅い月が、再び白く眩しい光を放つようになるまで、心偽らずに、踊ろう。
・・・まぁそれも、「大事な君」と言ってくれる人がいてこそのことなんだけどね・・・

【本当の彼女】
「とか」に続き「とてもいい感じ」も、ちょっとひっかかるフレーズ。
さておき。
これは元春の特徴だと思うんだけれども。
忘れがちだけど、元春はもうすぐ還暦。常にアップデートしている人だけれど、どっぷり昭和の下町の生まれなわけで。時に古めかしい、昭和なフレーズが出てくる。
「イノセンス」「エレガンス」「シルクのスカーフ」「カシミヤのコート」なんていうお馴染みのスタイリッシュな言葉たちの中に突然「気取り屋」なんて入れてくる。ハッとしちゃうよね(笑)
マンドリンが鮮やか。以前からマンドリンは使っているけど、コヨーテバンドではめずらしいかな?ラブサイケデリコの影響?(笑)

【バイ・ザ・シー】
聴いた途端、おぉまたコヨーテ達の世界が広がった!って思った。これまでのコヨーテバンドにはなかった雰囲気の曲。HKBみたいだけど、やっぱりコヨーテバンドなんだよね、あたりまえだけど。特にシュンちゃんのピアノを聴くとそう思う。
出だしがいきなり「世の中は不公平だ/ますますきびしくなっていく」・・・なんて現実的。
なのに週末には海辺のコテージですよ?(笑)
「たとえばひとつの美しい経験/幻を見るような眩しい永遠」なんて、出だしの直接的な歌詞とは正反対の、とても詩的な表現。
これらが両立しているこの曲。ともすればアンバランスに響くけど、ちゃんとまとめちゃうところが驚きです。

【優しい闇】
この曲はネットでフルバージョンが公開された時、Facebookの沖縄発言問題と結びついていた感があったhttp://caorena.exblog.jp/21784110/ けど、アルバムの中で聴くと全く印象が違う。すごいな。あんな騒動吹っ飛ぶくらいのパワーがあるな。
激しさと包容力。
ドライブ感たっぷりのこの曲は、たぶん今の若いバンドが演ってもそれなりに成り立つ。
でもきっと圧倒的に包容力が違うと思う。
聴いていてハッとしたのが、曲の展開。
最初は俯瞰でみた風景。優しい闇が訪れるのは、恋人たちの懐(この「懐」も先に書いた昭和なフレーズだよなぁ)。
次は、ぐっと引き寄せて、「君と僕との間」のこと。
だからなのか、演奏も、1番では全体でガーっといくんだけど、2番ではスッと引いて、ギターのハーモナイズやポロリンと入るピアノが互いを慈しむようなイメージ。
あぁもう本当に、芸が細かい!(笑)

【新世界の夜】
えっとね、この曲のこの感じはね、懐かしのあの雰囲気なんだよね。
ほら、Marvin Gayeの”What's Going On”。
双方の歌詞を見れば、通じるものがあるとも思える。
「正義が」の声のかすれ方が好き。
境界線に続きここでも「待っていたって何も変わらない」と。
間奏のひずんだギターソロ。そして曲を通して印象的なリフのピアノ。もうこれこそがコヨーテバンドのサウンド!
とてもとても大事なことが凝縮された一曲。



アナログではここでA面終了。
一旦筆を置きます。
by caorena | 2015-07-29 19:02 | 音楽